現在インプラント治療をお考えの方の中には、どんな歯科医院にお願いすれば良いのか、そもそもどんな治療が安心なのか、分からないことが多いという方もいらっしゃるかと思います。
歯科医院によって治療の内容や精度にはどうしても差がありますので、インプラント治療を受ける前の予備知識として、当院が皆様に知っておいていただきたいことをここでお伝えします。より満足度の高いインプラント治療のために、ご紹介する内容が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
インプラントのメーカー
世の中には何百ものインプラントメーカーが存在しており、安価な分持続性に劣るもの、高価な分品質も高いものなど様々です。インプラント治療は歯科医師のスキルに加え、どこのメーカーのインプラントを使用するかが重要になります。
インプラントは10年、20年と長く使うものですので、信頼と実績のあるメーカーや保証期間がしっかりしているメーカーを選ぶことが大切です。もしもインプラントメーカーがなくなってしまったら、保証期間中であっても当然ながら保証対応を受けることはできません。
また、転居や通院している歯科医院の閉鎖に伴って新たな歯科医院にかかる場合、そのメーカーを取り扱っていないと修理や保証は不可能です。患者様ご自身でメーカーを正しく比較するのは難しいですが、以下の「インプラントの4大メーカー」とされているメーカーは、4つ合わせ全世界の80%ものシェアを獲得していると言われています。当院は4大メーカーのような安心できるメーカーのインプラントをおすすめしています。
ストローマン
国際基準であるISO9001規格の認証を得た、高品質が保証されているメーカーです。ストローマンのインプラント体(人工歯根部)には純チタンが採用され、独自開発のSLAサーフェイスという細胞を活性化させる表面構造になっています。人体との親和性が非常に高く、骨とインプラントの結合期間を大幅に短縮することが可能です。
ジンマー
ジンマーのインプラントの特徴は、インプラント体とアバットメントの締結力の強さです。インプラント体と上部構造の連結には通常アバットメントという土台を使いますが、アバットメントはネジのように時間が経つにつれて少しずつ緩んできてしまいます。そこでジンマーはクサビ嵌合と呼ばれる連結様式を用い、緩みを最小限に留めています。
アストラテック
オッセオスピードという表面技術でインプラント体のチタン表面を化学処理し、骨とインプラントの早期かつ強固な結合を促します。インプラント体とアバットメントの連結部位に隙間ができない構造のため細菌感染のリスクが小さく、インプラント体周辺に起こる骨の吸収量も少ない、長期にわたる安定性が評価されているメーカーです。
ノーベルバイオケア
近代歯科インプラントのパイオニアであり、世界的な知名度を誇るノーベルバイオケアのインプラントは信頼性が高く、治療後のサポートも充実しています。長年の臨床研究に基づいて開発されたインプラントは幅広い症例に対応できる汎用性の高さを持っており、特殊な治療や高度な技術が求められるケースにおいても活躍しています。
歯科医院の治療環境
例えばレントゲン撮影による2次元の検査はすべての歯科医院で行われていますが、歯科用CTを導入しており3次元の診断ができる歯科医院の数は限られています。CT撮影では口腔内の立体的な情報を得ることができ、レントゲン撮影よりも精密な診断が可能となります。
患部の奥行きや深さ、状態などを細部まで正確に把握できていないと、インプラント埋入時に神経や骨を傷つけてしまう恐れがあります。治療計画の精度は治療の成功率に直結するため、当院では歯科用CTを用いた術前検査を行い、安全面にも配慮したインプラント治療に努めています。
そして、インプラント治療を行う空間はできる限り滅菌された清潔な環境であることが求められます。さらに言えば、インプラント治療専用の診療室か個室を完備しているのが理想的です。インプラント治療は外科手術ですので、治療に必要な医療機器や設備がどれだけ整っているか、院内感染を防止できているかは一つの大きな判断基準となります。
治療における人員体制
インプラント治療は、腕の良いドクターが一人いれば成り立つものではありません。医療安全・感染防止の観点から、手術は3人以上の体制で行うのが一般的です。一人目は外科処置を行う術者です。術者は完全滅菌されていることが大前提で、手術着や手袋などの備品もディスポーザブル(使い捨て)であることが重要になります。
二人目は術者のアシスタントです。患者様のお口に触れることがあるので、術者と同様にディスポーザブルの使用が望ましいです。そして三人目は、アシスタントのアシスタントにあたる人です。たとえ医療器具が滅菌されていても、器具が入っている袋の外側は外気に触れていますので細菌が付着しています。
そのため、自らは中身に触れないように袋を開け、無菌状態で器具を取り出せるように術者やアシスタントに渡す役目を担う三人目が必要となるのです。細菌感染はインプラントの脱落にも繋がります。手術時以外でも、常勤ドクターが複数人いる歯科医院は緊急時も柔軟に対応してくれる可能性が高いので、十分な人員体制が整っている歯科医院を選びましょう。
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カウンセリング
まずは患者様への問診を行い、インプラント治療を希望する理由や治療に対するご要望などをお伺いします。インプラント治療のほかに虫歯や歯周病治療を行う必要があるか、残存歯がある場合は抜歯する必要があるかなども併せてチェックさせていただきます。
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検査・診断と治療計画の決定
患者様の全身の既往歴の把握やレントゲン撮影のほか、インプラント治療にあたって特に重要となる骨の形や幅、骨密度などの情報をCT撮影によって取得します。検査結果に基づいた治療のシミュレーションを行い、最適な治療方法を検討、治療計画を決定します。
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インプラント埋入前の処置
インプラントを埋入できる口腔環境を整えるため、お口のクリーニングや虫歯・歯周病治療を行います。骨量が不足しているケースにおいては、サイナスリフト法(上顎洞底拳上術)やソケットリフト法などの骨造成治療を行ったあとにインプラントを埋入します。
※上記の処置はインプラント治療と並行して行う場合もあります。
※骨造成にはだいたい3~4ヶ月かかりますので、予めご了承ください。
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一次手術(インプラントの埋入)
歯槽骨の中にインプラントを埋め込むための穴を作り、インプラントを埋め込みます。埋入後は歯肉を縫い合わせて一旦穴を閉じ、インプラントと骨が結合するまでしばらく待ちます。
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治癒期間
治癒期間は症状や治療内容によって多少前後しますが、上顎で約6~12か月、下顎で約2~4か月ほどかかります。期間中は必要に応じて仮歯を入れますので、日常生活に特に支障はありません。
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二次手術(アバットメントの取り付け)
結合が確認できたら再び歯肉を切開し、インプラントの上部を露出させます。その上にアバットメントと呼ばれる人工歯(上部構造)を連結するための土台を取り付けます。
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仮歯の作製
人工歯を被せる前に一度仮歯を装着し、全体のバランスや噛み合わせの状態を見ながら調整を行います。
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人工歯の作製・装着
仮歯による調整が終わったら型をとり、その型をベースに患者様の歯の色や形に合わせて人工歯を作製します。完成したら最終的な調整を行い、作製した人工歯を装着します。
※型取りに約1週間、咬み合せの記録に約1~2週間、試適に約1週間程度の時間がかかります。
※装着時に万が一違和感があるようでしたらすぐにお知らせください。
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メンテナンス
インプラントを装着したらそれで終わりではなく、定期的なメンテナンスが必要です。お口の中が汚れていると、天然歯が歯周病にかかるようにインプラントもインプラント周囲炎という病気にかかります。当院ではメンテナンスの間隔を1か月、3か月、6か月と患者様に合わせてご案内しています。長く快適にインプラントを使い続けるためにも、定期的な来院でお口を清潔に保ちましょう。
歯周病の進行によって歯槽骨が溶けてしまった方や、生まれつき骨量が少ない方には、下記のような治療で顎の骨の再生を行っています。他院でインプラント治療を断られてしまった方でも、治療ができる可能性が飛躍的に高まります。
サイナスリフト法(上顎洞底拳上術)
サイナスリフト法とは、上顎の奥歯の骨の高さが不足している場合に適用可能な人工骨を造成する処置です。もともと上顎骨には上顎洞という空洞がありますが、歯を失うことで急速に上顎骨の吸収が始まり、骨量が減少していきます。
するとこの空洞が下方に広がってくるため上顎洞までの距離が短くなり、インプラントを埋入できるだけの骨の高さ(厚み)がなくなってしまいます。この足りない部分の骨を人工骨によって補う治療がサイナスリフト法です。
まずは頬側の歯肉を剥離し、上顎洞の壁側にあたる部分の骨を取り除いて上顎洞の粘膜(シュナイダー膜)を露出させます。次にシュナイダー膜の底面を持ち上げて隙間に骨補填剤を填入し、取り除いた骨を戻してメンブレン(組織の再生を促す人工膜)で被覆します。その後は骨補填剤が人工骨になるまで約3ヶ月~6ヶ月ほど待ち、人工骨が完成次第インプラント治療を行います。
ソケットリフト法
ソケットリフト法もサイナスリフト法と同様に、上顎の奥歯の骨量が少なくインプラントを埋入するのが不可能な場合に行う骨造成治療です。サイナスリフト法が上顎洞の壁面から骨補填剤を入れるのに対し、ソケットリフト法はインプラントを埋入する場所に穴を開け、そこから骨補填剤を入れてシュナイダー膜を少しずつ押し上げていきます。
インプラント治療には最低でも10mm程度の骨の厚さが必要です。サイナスリフト法は骨が非常に薄い場合(5mm未満)に適用される方法ですが、ソケットリフト法は骨にある程度の厚み(5mm以上)がありながらも、インプラントを埋入する厚さはない場合に適用されるという点でも違いがあります。部分的な治療となるためサイナスリフト法と比べると傷口が小さく、身体的な負担の軽減や治療時間の短縮といったメリットもあります。しかしソケットリフト法では粘膜を目視できないため、治療の際に粘膜を損傷するリスクも伴います。
どちらの方法で治療を行うかは、患者様の症状や歯科医師の技量に大きく関わってきます。骨造成治療は難易度の高い治療ですので、経験豊富な歯科医師の判断のもとで適切に行われる必要があります。
エムドゲイン法
スウェーデンのビオラ社で開発された歯周組織再生誘導材料「エムドゲインゲル」を使用し、歯周病の進行によって吸収されてしまった顎の骨などの歯周組織を再生させる治療です。
重度の歯周病の症状が見られ、歯周組織を回復させるための歯周外科手術が必要なケースに使用します。麻酔注入後、歯肉を切開し歯根にこびりついた歯石などを除去した後に、歯の周囲にエムドゲインゲルを塗布して傷口を縫合します。
エムドゲインゲルの主成分は、豚の歯胚組織から作られた特殊なたんぱく質です。たんぱく質は歯の発生過程において重要な働きがあり、エムドゲインゲルを患部に塗布することで歯が生えてくる時と似た口内環境を再現することが可能となります。体内に吸収される時も身体に悪影響を与えることがなく、歯周組織の再生後に除去する必要もありません。
GBR法
上下顎の骨の幅が少ない場合に適用される骨再生治療で、インプラントの埋入手術と同時の処置が可能です。はじめにインプラントを埋入し、骨が足りていない部分に患者様自身の骨や人工骨を混ぜた骨補填剤を填入したらメンブレンを被せて歯肉を縫合します。
歯槽骨や歯根膜などの歯周組織には自然治癒力がなく、一度破壊されると治療を行わない限り吸収が進んでしまいます。また、歯周組織の再生速度は遅いため、吸収された部分に歯肉が先に入り込んで歯周組織が再生する場所を奪ってしまいます。そこで骨補填剤と歯肉の間にメンブレンを挟んで歯肉の侵入を防ぎ、歯周組織が回復するスペースを確保する工程が不可欠となります。
骨の再生とインプラントの結合には約3~4ヶ月ほど時間がかかりますが、この期間が終わると人工歯(インプラントの上部構造)の作製段階に入ることができます。